わかっている気がするのは気のせい?
「言葉、わかってるよね?」――犬や猫と暮らしていると、そう感じる瞬間があります。彼らは“人間の言葉そのもの”を理解しているのか。それとも、音の合図や場面の流れを読んでいるのか。 実はこの間には、いくつか段階があります。
まず犬: 言葉は「音」以上に扱える。
犬が理解しているのは、ただの雰囲気ではありません。たとえば、犬が“単語(モノの名前)”を覚えられることは、研究で確かめられています。ボーダーコリーの「Chaser(チェイサー)」は、複数の物の名前を学習し、言葉が指す対象を区別できることが示されました(Pilley & Reid, 2011)。
さらに犬は、言葉の意味と話し方(イントネーション)を分けて処理している可能性が、脳の研究から示されています。Eötvös Loránd University(エトヴェシュ・ロラーンド大学)の研究では、犬が“言葉”と“話し方”を別々の脳領域で処理していることが報告されています(Andics ら, 2016)。
ただし、ここで誠実に言っておきたいことがあります。犬が「人間と同じように会話を理解している」わけではありません。 多くの場合、犬は「よく聞く音」「いつもの状況」「飼い主の行動」もまとめて手がかりにしています。つまり、犬がわかっているのは“言葉だけ”ではなく、言葉を含む一連の合図。それでも、単語が単なる音ではなく「意味に近いもの」になっている例がある、というのが今わかっていることです。
次に猫: 言葉はわかる。でも、犬と同じ反応は期待しない。
猫についても、言葉の一部は認識できることが示されています。日本の研究(Saito ら, 2019)では、飼い猫が「自分の名前」と他の単語を聞き分ける可能性が示されました。
ただ猫は、犬のように「指示に従う」ことを優先しない個体も多いです。ここは能力の差というより、動機づけの違いとして理解するほうが自然です。わかっているのに動かない、は猫ではよく起きます。
その他のペット: たとえば鳥は“単語の使い方”が別格の例もある。
「その他のペット」として代表的なのは、オウムの仲間です。アフリカン・グレイ・パロットの「Alex(アレックス)」は、研究者Irene Pepperberg(アイリーン・ペパーバーグ)の長年の研究で、色・形・材質などを言葉で区別し、概念課題にも取り組んだ例として知られています。
ここは犬猫と違い、“発声”ができるぶん、人間側が理解を確認しやすいという利点もあります。ただし、鳥が人間と同じ意味世界で話しているわけではありません。私たちが学べるのは、「生きものは、私たちの想像以上に“言葉の手前”を理解できることがある」という点です。
理解の形はそれぞれ。でも共通して言えること。
犬や猫が理解しているのは、単語だけでも、雰囲気だけでもありません。言葉+状況+関係性がひとつの束になって伝わっていると言えます。そして、言葉にできない感情を、ペットが汲み取ってくれていると私たちが感じるのも、過ごした時間や関係性による賜物なのかもしれません。
出典
- John W. Pilley, Alliston K. Reid(2011)「Border collie comprehends object names as verbal referents」
- Attila Andics ほか(2016)「Neural mechanisms for lexical processing in dogs(犬の言葉とイントネーション処理に関する研究)」
- Atsuko Saito ほか(2019)「Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words」
- Irene M. Pepperberg(1999)「The Alex Studies: Cognitive and Communicative Abilities of Grey Parrots」